二流社会人のメモ帳

興味のあることを徒然なるままに独りごちる。

2016年の面白かった本

【フィクション編】

◆特別賞◆『君を嫌いな奴はクズだよ』木下龍也
作家の道尾秀介さんがオススメしていた歌集。「目の付け所が面白いな~」と思わず唸る俳句が集まっています。日常風景はもちろん、アニメ、タレント、戦争まで何でも題材にしているのがすごい。

たとえばこんな感じ。

あの虹を無視したら撃てあの虹に立ち止まったら撃つなゴジラ
ぼくたちが核ミサイルを見上げる日どうせ死ぬのに後ずさりして
もうずっと泣いてる空を癒そうとあなたが選ぶ花柄の傘

本当は紙で読みたいところだけれど、Kindle Unlimitedでも読めてしまう。

◆3位◆『コンビニ人間』村田沙耶香
作品の内容もその売れ方も、時代を象徴している小説。個人的にはここ10年の芥川賞で最も素直に「面白い!」と言える作品だと思います。売れているし手を出しやすいと思うので是非。特に「SNS世代」の自覚がある人には刺さるはず。

◆2位◆『蜜蜂と遠雷』恩田陸
日本で開催される国際ピアノコンクールを舞台に「努力と才能」「凡人と天才」「芸術と商業」といった矛盾するテーマを描いている。作中のほとんどをピアニストの演奏とそれに対する感想が占めているけど、その密度とリアリティが凄まじすぎて、実在するコンクールのノンフィクションなのか?と思うほど。500ページ超(しかもこのご時世に二段組!)という驚愕のボリュームを誇る作品だけれど、恩田陸の筆力がこれで
もか!と込められているのでアッサリ読み終えてしまいます。あと、表紙やカバーがとても良くて、部屋に飾るだけでもなんかオシャレ。

◆1位◆『リリース』古谷田奈月
同性愛者がマジョリティとなったディストピアで、異性愛者のテロリストたちが「精子バンク」を襲撃する物語。これは、紛うことなき天才による作品です。「天才」というもはや陳腐になった言葉でしか、彼女の小説を表す術はありません。翻訳調の独特な文体に共感覚のような比喩、シニカルな言い回し。小説という媒体でしか表現できない
魅力が詰まっています。好き嫌いがハッキリでるタイプの作家ですが、この人をスターにできないなら出版業界は滅んでも仕方ないくらいです。


【ノンフィクション編】

◆特別賞◆『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』ロマン優光
「サブカル」「オタク」といったワードが混在してグチャグチャに使われている時代ですが、そんなモヤモヤを解きほぐしてくれるエッセイのようなものです。吉田豪に対する分析なんかはその通りだよな~となります。

◆3位◆『日本会議の研究』菅野完
2016年最も話題を巻き起こした新書。この本が誕生してヒットするまでの過程も、時代を象徴しています。
謎の組織と思われていた「日本会議」についてものすごく丁寧に調べられており、まさに「研究」と呼ぶにふさわしいし、読み物としても面白いです。

◆2位◆『欧州複合危機』遠藤乾
経済危機や難民問題などに直面する現在の欧州で、何が起きているのか?知りたい人はとりあえず読んでみるべき一冊。課題の本質がコンパクトにまとまっています。『イスラーム国の衝撃』などに連なる、大人の教養としての新書。

◆1位◆『「その日暮らし」の人類学』小川さやか
タンザニアの行商人たちの経済活動を題材に、「もう一つの資本主義」を映し出すルポ的な本。周りから金を借りまくったり中国でコピー商品を買い付けたりといった、ダイナミックで破天荒な行商人たち(とそれに付き合う著者)の面白さと、学術的な分析とが絶妙にかみ合った良書です。

 

映画の感想:『シン・ゴジラ』『葛城事件』

シン・ゴジラは面白かった。現代ビジネスの記事が一番よくまとまっていると思う。

ゴジラ原発(震災)in東京

・最後は「破壊」「終息」できずに「共存」する運命

・市井の人々や主要キャラの家族などミクロの話は一切展開されず、国の中枢の意思決定が中心となる

・字幕の使い方は昔の特撮や『日本沈没』へのオマージュ+エヴァ的な演出

博士の消息や石原さとみの迷走キャラなどが突っ込みどころかな。

 

葛城事件は個人的には、正直笑えない。三浦友和を中心に、あの一家の演技はヤバかった。狂言回しの田中麗菜はてっきり被害者遺族とかなのかなと深読みしてたが、最後まで不明のまま終わって違和感。まあ遺族だとしたらご都合主義と言えてしまうのかもしれないが、全く説明無いのはなあ・・・。ああいう人って普通にいるものとしてスルー出来るのか?にしてはストーリーに深く入り込み過ぎじゃないか。まあ全体としては面白かったんだけど。

2016年上半期直木賞寸評

あくまで「候補作の」「クオリティだけを」評価するならば

荻原浩伊東潤原田マハ>門井慶喜>>壁>>米澤穂信湊かなえ
って感じかなあ。正直、荻原さんが受賞するとは思っていなかった・・・笑


荻原浩『海の見える理髪店』:巻頭の表題作『海の見える理髪店』と、真ん中あたりにある『空は今日もスカイ』が素晴らしい。他は飛びぬけて面白くはないけれど、大外れのものはなく、よくできてはいる。得意技である寂れた中年男性から、新婚夫婦や小学3年生の女の子までをすべて1人称で書ける点は本当にすごいと思う。ただ、それに加えて短編集という作品の性質上、小説に対してではなく荻原さんという作家に対しての賞であることは間違いない。

伊東潤『天下人の茶』:伊東さんが千利休を題材にするという時点で、期待値が高くなってしまった気がする。話自体は千利休を軸とした連作短編で非常に面白いのだが、題材に対してやや小粒感が否めない。数年前に『利休にたずねよ』が受賞していることもマイナス材料だったかと。もっと練り込んだ大作にしてほしかったなあ(それができる作家なだけに)。

原田マハ『暗幕のゲルニカ』:間違いなく候補作の中で一番の「大作」である。他が短編集ばかりというのもあるが。
ピカソゲルニカを扱っているだけに、著者の中でも相当な意気込みがあったに違いない。この人にしか書けないテーマだし、メッセージ性も明確。(個人的にはそれらの点を考慮して、今回は原田さんが受賞すると予想していた)
しかし、ストーリーがあまりに一直線すぎる。あとは、文章やキャラクターのスノッブでソフィスティケートされた感じが鼻につく人もいるだろうな。
個人的には、フィクションっぽさがぬぐえなかった。伝えたいメッセージが先にあるせいで、設定や展開がご都合主義になっている気がする。そのためか、物語にリアリティを感じにくい。良い作品だがエンタテインメントとしては評価が低くなる。まあ、この作家の性質上、本屋大賞とかの方が向いているような。


門井慶喜『家康、江戸を建てる』:選評でも言われていたが、まさに時代小説版『プロジェクトX』って感じ。着眼点は面白いし文章もカタカナ語を取り入れている点などは個人的に高評価なのだが、いかんせんストーリーが単調。要約すればすべて「いろいろ大変で時間かかったけど、頑張ったぜ~」みたいな。カタルシスがない。


米澤穂信『真実の10メートル手前』:『ナイフを失われた思い出の中に』はなかなかよかった。『名を刻む死』も悪くはない。ただ、他は読む価値ない。片手間に軽~く書いた短編集って感じ。ミステリ要素は基本的にない。


湊かなえ『ポイズンドーター・ホーリーマザー』:「とりあえずイヤミス書けばいいんでしょ?」っていう雑な感じがぬぐえなかった。そこに最近話題の「毒親」をかけ算すればいいと。湊かなえの全ての作品に言えることだが、社会性やテーマ性が欠片もない。もちろんそんなものなくたって面白ければ良いのだが、どうしても作品としての薄っぺらさが目に付いてしまう。少しは良い所を探すとするならば…『優しい人』の主人公のキャラクターは結構共感できる。

 

 

映画の感想:『スポットライト』

 

邦題は『スポットライト~世紀のスクープ~』なのだが、『SPOTLIGHT』だけの方がシンプルでカッコいいよね。『レヴェナント~蘇りし者~』も、素直に『REVENANT』となっている方が良い。まあ、それだと売れないんだろうけど…。

 

本格社会派ドラマで、アカデミー賞うけの良さそうな作品だった。

特別な仕掛け(例えば登場人物に不幸な過去を背負わせて当事者性を帯びさせるなど)によりドラマチックにしようという意図がなく、仕事自体は淡々と進められていったのが良かった。実話に基づいているから下手な改変はやりにくいってのもあるが。端折ってる部分はあれど、編集会議とかは割とリアル。

ただ、終盤にかけて徐々に各人の熱いハートが見え始め、人間ドラマの体をなしてくる。ただ、「プロとして抑えていた部分が限界を超えてにじみ出てきている感」が伝わるので、派手な言葉ではなくともかえって心に響いた。スクープの先送りが決まってブチ切れるシーンだったり、記事の公表を止めようとしてくる弁護士や枢機卿とのやり取りだったり。

特に、クリスマスの聖歌をBGMにして皆が作業に打ち込むシーンは思わず泣きそうになった。仕事ってこういうことなんすよね・・・!

 

『ナイトクローラー』がテン年代以降のリアルを映し出した作品だとすれば、『スポットライト』は今の時代にも受け継がれなければならない、ジャーナリズムの「本気」を描いた作品だと思う。タイプは全く異なるが、質の高い映画だった。レイチェル・マクアダムスかわいい。37才には見えんw

 

 

フォントのふしぎ

 という本がぐう面白い。

LOUIS VUITTONfutura mediumの字間を空けている。

マイケルのTHIS IS ITで使われたtrajanはトラヤヌス帝記念柱の文字を忠実に再現している。

GODIVAはtimes romanからtrajanに変えて、その後さらにtarajanからセリフを取り去った。こちらも字間を空けている。

元の設定では小文字を使った時に見栄えが良くなるバランスとなっているので、ロゴなど(=大文字のみ)ならば間隔を広めにとった方が美しく見えて「王道感」が出る。(逆に例えば、ドルガバも同じくfuturaだが、こちらはアバンギャルド感を出すために字間をギリギリに詰めている。)

 

また、碑文モチーフ以外には銅板印刷モチーフも王道感が出る。

フランスの紅茶マリアージュ・フレールやディーン&デッルーカなどに使われるcopperplate gothic、ピエール・マルコリーニのsackers gothic、Diorのnicolas cochinなど。snell roundhandのようなスクリプト体と組み合わせると効果抜群。

 

ファッション誌ではdidotやICT bodoniなどが使われがち。文字自体はシンプルだが、細い部分が繊細さを醸し出している。

HelveticaはルフトハンザやNY地下鉄などの交通関係におけるコーポレートタイプとしてよく使われる。またFENDIのロゴにもなっている。字が開いていて記号のように見やすいFrutigerはシャルルドゴールやヒースロー、インチョンなどの多くの空港、さらにはJRのプラットホームの表示にも使われている。サンセリフに革命を起こしたフォントの一つ。

dysonのロゴはhoratioを応用している。

パリの地下鉄は文字通りmetropolitainesというフォントになっている。(というか、このロゴを作った後でフォントになった)

 

Courierはタイプライターで打った感じがそのまま出るから、無機質な表現にぴったり。『ハートロッカー』『ジョニーは戦場へ行った』で使われているのも納得。

 

大文字と小文字は組み合わせても大丈夫。見た目のバランスが大事。(suntoryやbraunのひげそりなど。)

最近は大きくてもlightなフォントが多い。うるさくならないように配慮しているのかな。

 

AやVの太さが微妙に違うのは、昔の碑文などは筆で下書きしていたのを基にして作られていたから。サンセリフでも完全に同じ太さではなく、目の錯覚に合わせた微調整が施されている。

 

合字をきちんとするのは欧文組版のプロとしての最低条件。これができてないと即失格。

 

―余談

フォントの神様曰く、はんなり明朝は美しくないそうな。「○○ってフォントがかっこいいよ!」といただの知識ではなく、フォントの良しあしを見分けられるまでの知恵が身に付いたらいいんだけどなあ。まあ、知識の積み重ねが知恵を生むのだけれども。やっぱりデザインのセンスを持っている人はすごいなあと感じる。文章と同じで、(頭を働かせたうえで)数をこなすのが一番の近道なのだろうなあ…。

 

映画の感想:『天空の蜂』

SYNODOSでのPR記事を読んで興味を持っていたのだが、そこでの話通りなかなか興味深い作品だった。

synodos.jp

 

やはり、エンタメと純文学の境目が消失してきているのと同じで、映画もエンタメ性とメッセージ性を両立させることが当たり前の世界になってきている。

正直、子供があんな序盤で助かるのは意外だった。終盤までヘリコプターに留まらせると思っていたが。展開的に、子供は不要じゃないか?まあそこは、序盤に一つの山場を作りたかったのかもしれないが。

終盤の複雑な人間関係は、少し説明不足だったのかもしれない。推測だが、原作を忠実に再現しようとしたが、小説と異なり説明的な要素を入れられない映画ではあのレベルにとどまったのかもしれない。もしこの作品をより大衆に見せたかったのなら、もう少し説明があってもよかったような気もする。(上から目線だが)

映画の感想:『オデッセイ』(火星の人)

この映画はボウイの『Starman』の流れるシーンがクライマックスである。あそこが作品で表現したかった全てである。正直、その後の地球着陸などは余談でしかない。

平田オリザの「問いの立て方」を基にすると、この作品はそれが非常にうまくいっている。とても明快なのだ。だから、開始30分の作り方さえ間違えなければ、あとは各人の懸命な努力や葛藤を丁寧に描けば良いだけだったのである。

 

―余談

この映画ができるまでのプロセスが非常に面白い。

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『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』もそうだったが、こうした流れはすごいなあ。新しい形のアメリカンドリームである。(もはやアメリカであることすら求められていないし)