映画の感想:七人の侍
恥ずかしながら、この前まで見たことがなかった。ただ小熊英二も「民主と愛国」の中で、人々の共生の理想形(みたいな感じだった気がする。このへんうろ覚え)としてこの映画をあげていたことからも、ただの娯楽作品を超えたテーマ性があるんだろうな~とは思っていた。ただなんとなく見るタイミングを逸していた感じ。
で、見てみたらただただ圧倒された。前に優れた芸術が持つ要素として①クオリティ②クリエイティビティ③メッセージの三要素をあげたが、この映画にはどれもが最高水準で詰まっていた。
本当の名作とはただ面白いだけの作品とは違い、色々な角度から「面白さ」を発見することができる。例えば『リアリティを追求した合戦⇒時代考証の巧みさ』『圧倒的な映像⇒撮影技法などの新しさ』『武士と農民の共生を描いたテーマ性⇒人間の問題に根底する普遍性』とかとか。これはカラマーゾフの兄弟などにも言えることで、この場合は『キャラクターの造形術』『時間操作の巧みさ』『作者の神への向き合い方』などなど。とにかく、1つの作品の中に多岐に渡る目の付け所、解釈の仕方がある。それは面白い作品以上の「名作」の条件なのかもしれない。
個人的には、休憩が入る前の前編部分だけでも十二分に面白かった。もちろんエンタメ作品だから合戦を見せることが大事なのだが、自分としてはその前の「武士と農民がいかに一致団結して戦いに臨むか」という過程で起こる衝突が非常に興味深かった。
またこの際に言えることは、トリックスターとしての菊千代のキャラクターの秀逸さである。序盤は「なんだこいつ?」と、とにかく違和感みたいなものを残す存在であり、三船敏郎の個性も相まって、ストーリーの滑らかさをぶち壊す邪魔者として強烈に映る。ただ、主人公である彼が武士と農民の媒介となっていることが物語の構成を容易にしている。本当にこのキャラクターは上手く描いたなーと思う。とにかく存在感も異常だし。
「他者、またその共同体との共生」「垂直的ではなく水平的な繋がり⇒自発的な個人の積極的かつ緩やかな繋がり」というテーマはポリティカルフィクション(一部の恋愛モノなどを除いてフィクションとはほぼイコールでポリティカルフィクションになりえるけれど、それをメインテーマにしたものという意味)にとって永遠の「問い」でああろう。それは今の時代だから尚更響くのかもしれない。