メモ帳

千葉の田舎で生まれ、東京の出版社で働いている20代。ノンフィクションを中心に、読んだ本や観た映画についてのメモ代わりに書いています。

パッキャオとメイウェザーとクロップとモウリーニョ

 

この一戦を見るためだけにWOWOW契約してしまった…。ミーハーと言えばそれまでなんだけれど、この試合は素人でも見逃せない。やっぱり、良いコンテンツを抱えることが最大の広告。

(一つ文句を言うならば、実況がパッキャオに肩入れしすぎだった。アジア人であることやその経歴を考えると大多数のひとがパッキャオ派なのは間違いないが、もう少し冷静な実況をしてほしかった。もしくは「完全にパッキャオ側である」立場を明確にすればよかったのに。下手に中立を心がけている感じを出すから、余計にパッキャオへの肩入れが目立って不快だった。)

 

 

パッキャオとメイウェザーのことを少し調べれば、なぜこの試合が「世紀の一戦」と言われるのかはわかる。そして、試合がどうだったのかも。個人的には、以下のリンク先の記事が最も簡潔にまとまっていると思う。

 

遅すぎた「夢の対決」 メイウェザー対パッキャオ | THE PAGE(ザ・ページ)

メイウェザー、パッキャオは名勝負だったのか? | THE PAGE(ザ・ページ)

 

自分の感想も大方と同じで、「確かに3年前にやってたらパッキャオが勝つ可能性はもう少し高かったけど、メイウェザー有利は揺るがない」って感じ。まあ、どちらが「ボクシング」という競技が強いのか?って話。

 

正直ボクシングはそこまで頻繁に見るわけではない(パッキャオ、メイウェザークラスの試合ならたまに見るくらい)ので専門的なことは何も言えないが、この試合を通じて強く感じたことがある。それは、全てのスポーツに共通する「競技としての強さ」である。イデアリズムvsリアリズムとも言い換えられる。

 

パッキャオのスタイルは、素人が見ても楽しい。「ガンガンいこうぜ」を体現したファイトスタイルだから、スピーディで手数が多い。しかも水準以上のパワーとテクニックもあるし、何よりスタミナが切れない。だからファンはとてもスリリングな試合が見れて大満足。攻めて攻めて攻めまくる、という点では理想主義的な戦い方である。

一方メイウェザーは、徹底したリアリスト。鉄壁と称される守備力を活かしたアウトボクシングは素晴らしいが、どちらか玄人受けするスタイル。相手が格下の時に見せつける「華麗」な守備も、パッキャオクラスが相手だと時にはクリンチなどに持ち込む必要もある。(とはいえ、後半の守備は圧巻だった)

 

判定という制度をなくして「どちらかが倒れるまでやる」という喧嘩のような戦いなら、パッキャオが勝つかもしれない。ただあくまで、ボクシングは「スポーツ」であり、厳密なルールがある。その枠内において、メイウェザーの戦い方は極めて合理的であり隙がない。

結局、戦前の予想通りメイウェザーはリアリスティックな戦い方を徹底し、パッキャオに「勝たせなかった」。

 

ただ、ここでスポーツの難しさが出てくる。単純に名勝負を見たがっているファンはどうなのか?彼らの心境は想像に難くない。だからこそ試合中「マニー」コールが起きて、最後にメイウェザーはあれほどのブーイングを受けることになった。

 

ファンを呼ぶスタイルと、試合に勝つスタイルはどこかで矛盾する。人は「良い試合」と「勝つ試合」のどちらを見たいのか?これは主にフットボールの世界で「永遠の問い」になっているのだが、やはりボクシングでも共通するんだなーと。ボクシングなんて、下手すればフットボール以上にショービジネスとしての側面が大きいわけだから、そりゃ難しいよな。

 

で、ここからが個人的に面白いな~と思ったこと。一言で言えば、メイウェザーモウリーニョ似すぎじゃない?っていう話。

奇しくもこの「世紀の一戦」の翌日、モウリーニョ率いるチェルシープレミアリーグの優勝を決めた。彼らが「リーグ戦という競技フォーマットの中で」ベストなチームであることは間違いない。実際、他クラブとは安定感に格段の差があった。

だが、はっきり言ってチェルシーフットボールはそこまでエキサイティングではない。むしろ、退屈な試合で勝ち点を稼ぐことがチェルシーらしい戦い方である。(似ているチームとしてはユベントスがあり、彼らも今節でセリエA優勝を決めた)

モウリーニョって大胆な言動で有名だけど、実際に披露するフットボールは相当手堅い。経験者ならわかる「ツボ」を完全に抑えている。例えば野球にしろバレーボールにしろ、まずは「しっかり守れる」ことが最重要だろう。そもそも「試合を作る」ことができなければ、勝ちをものにすることができないからだ。モウリーニョのチームも同じで、圧勝はあまりしないかわりに大敗はあり得ない。必ず僅差の戦いに持ち込む。だから経験者の多くは「こいつわかってるな~」と唸るが、素人目からすれば眠くなる試合もあるだろう。

破天荒な行動と、それに反した基本に忠実で堅実なスタイル。この点でメイウェザーモウリーニョはダブって見える。さらに言えば、メイウェザーがパッキャオ戦ですらあのリアリズムを突き通したことは、プロフェッショナルである。無敗王者にとっては「勝利」が最大の目的であり、そのために最も合理的なスタイルを選んでいるわけだ。

だから、個人的にはパッキャオが好きだけど、メイウェザーの戦いっぷりは充分称賛に値すると思う。「パッキャオかっこいい!メイウェザーなんて全然面白くないじゃん!」って考えは、逆にボクシングというスポーツを冒涜している。

ちゃんと勉強してから見れば、メイウェザーの守備がどれだけの才能と技術と準備に支えられているか理解できるようになるはずだ。他のスポーツにも言えることだが、派手で華麗なプレイよりも、一見地味に見えるプレイに中にこそ競技の本質が詰まっているのではないだろうか。

とは言っても、できることならスリリングな展開が見たいのは変わらないんだけどね笑

 

メイウェザー(モウリーニョ)がいるからこそパッキャオ(クロップ)の面白さがわかるし、逆にパッキャオ(ベンゲルでも可)がいるからこそ、メイウェザー(モウリーニョ)の強さがわかる。要は、スポーツひいては文化的なるものの良い所は「みんなちがって、みんないい」という言葉に集約されると思います!っていうことです。