二流社会人のメモ帳

興味のあることを徒然なるままに独りごちる。

2016年上半期直木賞寸評

あくまで「候補作の」「クオリティだけを」評価するならば

荻原浩伊東潤原田マハ>門井慶喜>>壁>>米澤穂信湊かなえ
って感じかなあ。正直、荻原さんが受賞するとは思っていなかった・・・笑


荻原浩『海の見える理髪店』:巻頭の表題作『海の見える理髪店』と、真ん中あたりにある『空は今日もスカイ』が素晴らしい。他は飛びぬけて面白くはないけれど、大外れのものはなく、よくできてはいる。得意技である寂れた中年男性から、新婚夫婦や小学3年生の女の子までをすべて1人称で書ける点は本当にすごいと思う。ただ、それに加えて短編集という作品の性質上、小説に対してではなく荻原さんという作家に対しての賞であることは間違いない。

伊東潤『天下人の茶』:伊東さんが千利休を題材にするという時点で、期待値が高くなってしまった気がする。話自体は千利休を軸とした連作短編で非常に面白いのだが、題材に対してやや小粒感が否めない。数年前に『利休にたずねよ』が受賞していることもマイナス材料だったかと。もっと練り込んだ大作にしてほしかったなあ(それができる作家なだけに)。

原田マハ『暗幕のゲルニカ』:間違いなく候補作の中で一番の「大作」である。他が短編集ばかりというのもあるが。
ピカソゲルニカを扱っているだけに、著者の中でも相当な意気込みがあったに違いない。この人にしか書けないテーマだし、メッセージ性も明確。(個人的にはそれらの点を考慮して、今回は原田さんが受賞すると予想していた)
しかし、ストーリーがあまりに一直線すぎる。あとは、文章やキャラクターのスノッブでソフィスティケートされた感じが鼻につく人もいるだろうな。
個人的には、フィクションっぽさがぬぐえなかった。伝えたいメッセージが先にあるせいで、設定や展開がご都合主義になっている気がする。そのためか、物語にリアリティを感じにくい。良い作品だがエンタテインメントとしては評価が低くなる。まあ、この作家の性質上、本屋大賞とかの方が向いているような。


門井慶喜『家康、江戸を建てる』:選評でも言われていたが、まさに時代小説版『プロジェクトX』って感じ。着眼点は面白いし文章もカタカナ語を取り入れている点などは個人的に高評価なのだが、いかんせんストーリーが単調。要約すればすべて「いろいろ大変で時間かかったけど、頑張ったぜ~」みたいな。カタルシスがない。


米澤穂信『真実の10メートル手前』:『ナイフを失われた思い出の中に』はなかなかよかった。『名を刻む死』も悪くはない。ただ、他は読む価値ない。片手間に軽~く書いた短編集って感じ。ミステリ要素は基本的にない。


湊かなえ『ポイズンドーター・ホーリーマザー』:「とりあえずイヤミス書けばいいんでしょ?」っていう雑な感じがぬぐえなかった。そこに最近話題の「毒親」をかけ算すればいいと。湊かなえの全ての作品に言えることだが、社会性やテーマ性が欠片もない。もちろんそんなものなくたって面白ければ良いのだが、どうしても作品としての薄っぺらさが目に付いてしまう。少しは良い所を探すとするならば…『優しい人』の主人公のキャラクターは結構共感できる。