メモ帳

千葉の田舎で生まれ、東京の出版社で働いている20代。ノンフィクションを中心に、読んだ本や観た映画についてのメモ代わりに書いています。

2017年に読んで面白かった本その① 死してなお踊れ: 一遍上人伝(栗原康)

 2017年は以前にも増してたくさん面白い本を読んで、新しい書き手と出会えて楽しかった。

 出版産業の構造不況とか十何年も言われていて、この状況が(加速的に悪化することはあるにせよ)止まることはないと思うが、目の前に面白いコンテンツがうまれ続けていることもまた事実であるのだから、日々大切に愛でていきたい。

 (そもそも自分としては出版業がビジネスとしてどうなるか、ということにイマイチ関心がない。その理由については今後書くつもり。)

 という訳で、2017年に読んでとりわけ面白いなーと感激した本を10冊あげてみる。10冊分書いてみたら結構長くなってしまったので、ひとつずつ。

 

①死してなお踊れ: 一遍上人

https://www.amazon.co.jp/%E6%AD%BB%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%AA%E3%81%8A%E8%B8%8A%E3%82%8C-%E4%B8%80%E9%81%8D%E4%B8%8A%E4%BA%BA%E4%BC%9D-%E6%A0%97%E5%8E%9F-%E5%BA%B7/dp/4309247911/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1514979185&sr=1-1&keywords=%E6%AD%BB%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%AA%E3%81%8A%E8%B8%8A%E3%82%8C

 

 「踊り念仏」を世に広めた一遍上人というお坊さんの生涯を通じて自由と支配について綴られる、栗原節が冴えわたった「最高にロック」な一冊。

 一遍上人とか誰だよ?と思うかもしれないが、知らなくても全く問題ない(自分も恥ずかしながらこの本を読むまであまりよく知らなかった)。

 栗原康の独特な文体を通じて顕れてくる一遍上人がカッコよすぎてヤバい。武家社会の鎌倉時代に「男も女も貧乏人もハンセン病患者も関係なく、みんなで踊ろうぜ!そしたら幸せじゃん!」と言っているのだから相当ヤバい(褒めてる)。ロックンロールに別の名前をつけるなら、チャック・ベリーじゃなくて一遍上人なのかもしれない、というくらい「最高にロック」。

 

 そして栗原康といえば、文体が非常に特徴的である。

 

 おどっちゃいなよ、食っちゃいなよ。みんなで食らって、死ぬ気でおどれ。フオオオ、フオオオオオオ。ごっちゃごちゃの、ぐっちゃぐちゃになって、ケダモノみたいにおどってしまえ。そうすりゃ身分もかっこうも関係ない。そんなのすぐに消えさってしまう。だれもかれもがケダモノだ。(p173-174)

 

 これ本当に学者さんが書いたの!?と面食らう「初見殺し」の文体なのだが、いざ読んでみるとめちゃくちゃ「上手な文章」に仕上がっているのである(「上手」とは書き手の言いたい事柄や伝えたい感情が素直に読者へ伝わる、という意味)。

 これは当然だが多くの文献を消化しているからこそ、可能な芸当だと思う。「守破離」でいうところの「離」であるから、普通の人間はこの文体でスムーズに書くことはできない。栗原さんは学者であると同時に詩人である。他にも例えば「我々は圧倒的に間違える。」「壊してさわいで燃やしてあばれろ。」といった言葉の一つ一つにものすごいキレを感じられる。

 この『死してなお踊れ』は、栗原さんの著作の中では最もストレートに「アナーキズムらしさ」が感じられる本だと思う。「一丸となってバラバラに生きろ」という作中の言葉は、今の時代だからこそ響く言葉ではないだろうか。

 踊りながら念仏を唱えるという日常の動きからは離れた「無駄な動き」をすること。それはすなわち私たちが囚われている「有用性のくびき」から逃れることである。「圧倒的にまちがえる」ことから我々の道は開けるのだ。

 

余談1.大学の卒論でサッカーの歴史について書いた際、足の動きは生活に最も関係ないからこそ逆説的に遊戯としての可能性が開かれていたのではないか、的な論を展開したのだが(寺山修司が『書を捨てよ、旅に出よう』で似たようなことを書いていると後から知った)、踊り念仏の「無駄な動き」はそれに通じる「遊戯」である気がする。

 

余談2.ジョジョ5部でブチャラティがボスに対して「吐き気をもよおす『邪悪』とはッ!なにも知らぬ無知なる者を利用する事だ…!!自分の利益だけのために利用する事だ…」という名セリフを吐いているが、新自由主義に関する言説を読むと(この本は基本的に評伝であるのだが、そういう読み方もできてしまう)、それに近い感覚を覚える。そういう「邪悪」が少しでもなくなってほしい。