メモ帳

千葉の田舎で生まれ、東京の出版社で働いている20代。ノンフィクションを中心に、読んだ本や観た映画についてのメモ代わりに書いています。

フォントのふしぎ

 という本がぐう面白い。

LOUIS VUITTONfutura mediumの字間を空けている。

マイケルのTHIS IS ITで使われたtrajanはトラヤヌス帝記念柱の文字を忠実に再現している。

GODIVAはtimes romanからtrajanに変えて、その後さらにtarajanからセリフを取り去った。こちらも字間を空けている。

元の設定では小文字を使った時に見栄えが良くなるバランスとなっているので、ロゴなど(=大文字のみ)ならば間隔を広めにとった方が美しく見えて「王道感」が出る。(逆に例えば、ドルガバも同じくfuturaだが、こちらはアバンギャルド感を出すために字間をギリギリに詰めている。)

 

また、碑文モチーフ以外には銅板印刷モチーフも王道感が出る。

フランスの紅茶マリアージュ・フレールやディーン&デッルーカなどに使われるcopperplate gothic、ピエール・マルコリーニのsackers gothic、Diorのnicolas cochinなど。snell roundhandのようなスクリプト体と組み合わせると効果抜群。

 

ファッション誌ではdidotやICT bodoniなどが使われがち。文字自体はシンプルだが、細い部分が繊細さを醸し出している。

HelveticaはルフトハンザやNY地下鉄などの交通関係におけるコーポレートタイプとしてよく使われる。またFENDIのロゴにもなっている。字が開いていて記号のように見やすいFrutigerはシャルルドゴールやヒースロー、インチョンなどの多くの空港、さらにはJRのプラットホームの表示にも使われている。サンセリフに革命を起こしたフォントの一つ。

dysonのロゴはhoratioを応用している。

パリの地下鉄は文字通りmetropolitainesというフォントになっている。(というか、このロゴを作った後でフォントになった)

 

Courierはタイプライターで打った感じがそのまま出るから、無機質な表現にぴったり。『ハートロッカー』『ジョニーは戦場へ行った』で使われているのも納得。

 

大文字と小文字は組み合わせても大丈夫。見た目のバランスが大事。(suntoryやbraunのひげそりなど。)

最近は大きくてもlightなフォントが多い。うるさくならないように配慮しているのかな。

 

AやVの太さが微妙に違うのは、昔の碑文などは筆で下書きしていたのを基にして作られていたから。サンセリフでも完全に同じ太さではなく、目の錯覚に合わせた微調整が施されている。

 

合字をきちんとするのは欧文組版のプロとしての最低条件。これができてないと即失格。

 

―余談

フォントの神様曰く、はんなり明朝は美しくないそうな。「○○ってフォントがかっこいいよ!」といただの知識ではなく、フォントの良しあしを見分けられるまでの知恵が身に付いたらいいんだけどなあ。まあ、知識の積み重ねが知恵を生むのだけれども。やっぱりデザインのセンスを持っている人はすごいなあと感じる。文章と同じで、(頭を働かせたうえで)数をこなすのが一番の近道なのだろうなあ…。

 

映画の感想:『天空の蜂』

SYNODOSでのPR記事を読んで興味を持っていたのだが、そこでの話通りなかなか興味深い作品だった。

synodos.jp

 

やはり、エンタメと純文学の境目が消失してきているのと同じで、映画もエンタメ性とメッセージ性を両立させることが当たり前の世界になってきている。

正直、子供があんな序盤で助かるのは意外だった。終盤までヘリコプターに留まらせると思っていたが。展開的に、子供は不要じゃないか?まあそこは、序盤に一つの山場を作りたかったのかもしれないが。

終盤の複雑な人間関係は、少し説明不足だったのかもしれない。推測だが、原作を忠実に再現しようとしたが、小説と異なり説明的な要素を入れられない映画ではあのレベルにとどまったのかもしれない。もしこの作品をより大衆に見せたかったのなら、もう少し説明があってもよかったような気もする。(上から目線だが)

映画の感想:『オデッセイ』(火星の人)

この映画はボウイの『Starman』の流れるシーンがクライマックスである。あそこが作品で表現したかった全てである。正直、その後の地球着陸などは余談でしかない。

平田オリザの「問いの立て方」を基にすると、この作品はそれが非常にうまくいっている。とても明快なのだ。だから、開始30分の作り方さえ間違えなければ、あとは各人の懸命な努力や葛藤を丁寧に描けば良いだけだったのである。

 

―余談

この映画ができるまでのプロセスが非常に面白い。

NASAマニアの書いたブログが一部で人気を博し、Kindle自費出版AmazonのSFランキングで上位進出⇒それを見た出版社がオファー⇒アメリカで大ヒット⇒映画化

『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』もそうだったが、こうした流れはすごいなあ。新しい形のアメリカンドリームである。(もはやアメリカであることすら求められていないし)

【美術展見聞録】雑貨展

「動きのカガク」のキュレーター(?)が菱川勢一だったのに続き、今回の「雑貨展」は深澤直人

プロダクトデザインってやはり面白い。ベルリンでバウハウスミュージアムを訪れた際にも感じたことだが、「ほらほらこれが美術作品ですよ~!」ってならないのが良い。生活にひそむ美しさというか、お高くとまらない。日常に、大衆に寄り添っている。

デザインサイトは「デザイン」をキュレーションするのが本当に上手だ。見せ方もわかりやすくて、あの独特な展示スペースの形状を上手く使っている。メリハリがついている。サブカル系にはたまらんのだろうな。

 

※余談(アイデア

「動きのカガク」は、新体操のリボンみたいなやつを遠隔操作できる作品が面白かった。あれを応用して、「IoT猫じゃらし」を作りたい。スマホのセンサーを通じて、実家に設置された猫じゃらしが動く、みたいな。これがあれば独り暮らしの人や出勤中でも、猫と触れ合うことができる。ついでにモニター機能が付くことで、「ペット大丈夫かなあ?」という不安も和らぐ。

【美術展見聞録】キセイノセイキ

ディズニーランドかってくらいの長蛇の列をなすピクサー展を横目に向かう。案の定、人は少ない。

非常に興味深かったのは、報道カメラマンの横田徹さんが撮影した映像が展示されていた点。美術展が「美術」の枠を拡張しつつあることがわかる。(今回のテーマは「表現の自由」にフォーカスしているのでこうした作品も含まれてくるのは当然とも言えるが)

女子高生(かわいい)がスミノフを飲んでいる写真や、空想(で終わってしまった)戦争を振り返る展示などなど、「何が、なぜ、誰によって、規制されるのか」を考えるのは面白かった。

個人的に「JAPAN ERECTION」という作品+映像に惹かれた。シンプルだけど作品のエネルギーがストレートに伝わってくる。

↓(局部が露出されているので閲覧注意)

https://www.youtube.com/watch?v=7G46YMyQjBY

 

東京都美術館会田誠が物議を醸した(醸された)「檄」を展示した「ここはだれの場所?」展など、キワドイ線を攻める姿勢が良い。(ピクサー展の様なキャッチーなものも含めて、トータルで展示スケジュールのバランスがとれている)

 

【美術展見聞録】谷崎潤一郎文学の着物を見る+『細雪』の感想

会場内は思ったよりもにぎわっていて、着物をみにつけた奥様方が多かったのが印象的だった。ここを訪れた後に『細雪』を読んだので、作品への満足度は上がった。

 

ついでに竹久夢二の方も見れて満足。内藤ルネ水森亜土など20世紀の日本を代表するイラストレーターの流れを知ることが出来て良かった。あまり詳しくない分野だけになおさら。

 

※『細雪』の簡単な感想

文章が丁寧で美しい。中で出てくる手紙や歌の読みやすさたるや。優美で清らかで、無駄がない。美しいものを追い求めたら必然的に機能的になったのだろう。(機能⇒美という順番の場合が多いが、個人的に谷崎は逆の道をたどったのだと思う。)

 

中身に対して突っ込むと、雪子のような人間は僕には無理だ。ああした美しさは俺には耐えられない。妙子のような妖婦型の方がよほどマシである。

物語の最後における(妙子が流産するのはまあ当然の流れだが)雪子の下痢は彼女の人生の「しょうもなさ」を表した、ある種の谷崎の皮肉ではないかと考える。きっと違うけれど、僕は勝手にそう思い込んでいる。

【美術展見聞録】MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事

「明日来ていく服を提案する」というウチのスタイルとはベクトルが異なるが、面白かった。

シリコンを流し込んでかたどった服や、サーキュラーという丸い一枚の布からかたどった服などを見て、自分が今まで想像していたよりも、服ってもっと自由なんだなと感じた。たしかに、服って最も身近なプロダクトデザインだなあと。そうした観点から衣服を捉えていくのは面白い。

 

余談だが、人事が『子供はわかってあげない』を好きだそうで嬉しい。やっぱり、自分の好きなものを好きな人は好きだよね。思い込みでもいいから「感性が合う」ことはとても気持ちの良い瞬間。